ここ最近の歯科器材や材料の発展は目まぐるしい。その臨床応用が実現した理由の一つに接着が挙げられる。
トピック1 接着とは
接着と簡単に使っているが、現在は接着剤を媒介とし、化学的もしくは物理的な力またはその両者によって2つの面が結合した状態、と定義されている。この接着のメカニズムについて、簡単には、機械的結合、物理的相互作用、科学相互作用の3つがある。機械的結合はアンカー効果とか投錨効果ともいわれ、材料表面の孔や谷間に液状接着剤がはいりこみ、そこで固まることによって接着が成り立つという考え方である。
また歯質のカルシウムと化学結合ができるように接着モノマーは象牙質接着を目的に開発されてきた。
トピック2 接着における歯質の性格とは?
歯の構造は外層からエナメル質、象牙質、歯根表面のセメント質、象牙質の奥には歯髄組織となり、発生源も異なる。エナメル質は無機質が96%でリン酸カルシウムが主成分となっている。象牙質は70%がハイドロキシアパタイトの無機質、20%がコラーゲンなどの有機質、10%が水分といわれており、エナメル質とは異なる成分である。セメント質は、無機質の主成分であるハイドロキシアパタイトが約60%、その他に有機物が25%、そして15%が水分で構成されている。
このように主成分が異なることから充填材による歯への接着、あるいは歯冠修復におけるクラウンやブリッジ支台歯への接着では、主にエナメル質と象牙質を考慮する必要があることに注意したい。また削除した後のエナメル質と象牙質の厚みについても、歯髄刺激の観点から接着前処理時に考慮すべきである。
トピック3 直接修復における接着技術
過去にはMMA 系レジンで歯髄刺激が著しいため歯髄疾患に至ることが多かったので2000年代以前は企業や大学研究機関でも接着性モノマーの研究開発競争が激しくなり、改良されてきた。その中でも4-META/MMA-TBBレジン(スーパーボンド)についてはその有用性から現在でも多くの歯科医院に常備されているようである。
接着技術の向上とともに、高分子材料や複合材料がこの20年で目まぐるしく発展している。特に直接充填用コンポジットレジンは、ハイブリッド型の製品が市販され、機械的強度も従来のものとは比較にならないほど向上している。これにより、臼歯部にも対応が可能とされているが、賦形成など操作性に難がある商品も一部みうけられるようである。
またモノマーやフィラーもより改良され、レジンの短所であった重合収縮をおさえた商品も出てきている。現在はフィラーサイズも超微粒子とナノサイズのフィラーを配合させたナノハイブリット型のコンポジットレジンが市場の高いシェアを占めている。
トピック4 間接修復における接着技術
接着技術の向上により、レジンインレー、レジンジャケットクラウン、更にセラミック修復と、治療の幅が広がっている。
しかしながら、直接修復とは異なり、間接修復では歯冠修復・補綴装置と歯質の境界、すなわちレジンセメントと装着の界面、装置と歯質との界面という2つの接着界面における接着性の良否が予後に影響する。従って化学結合が可能な処理剤やセメントが開発されたとしても、最終的には術者のテクニックに予後が左右されることとなることに留意。
トピック5 接着技術の発展が可能にした審美材料の出現
歯質接着が可能にしたセラミック修復の中で代表的なものにジルコニアがあるが、長期予後のデータがまだ出ていない。
その他、保険診療でも、CAD/CAM冠の登場、臼歯部へのアレルギー患者への適応、さらに、小臼歯のハイブリットレジンブリッジの適応と、拡大している。
トピック6 マルチといわれる表面処理材の実力は?
従来は2ステップが主流であったが臨床における操作の煩雑さを解消するために、現在は1ステップが主流であり、かつ異なる接着体への対応が可能なマルチアドヒーシブタイプの製品が多く市販されている。しかし、1つのボトルに様々な官能基がはいっていることから官能基同士が反応して、場合によっては重合してしまい、いざ接着するときに機能を発揮しないようなことも起こるのではと予想できる。
トピック7 歯質に優しい接着剤とは
歯質を主体に考慮した場合に、グラスアイオノマーセメントがあげられる。材料自体に歯質接着性があり、フッ素徐放性がある
最近では光硬化型も開発されている。
トピック8 歯冠修復材料の理想とは
一番の理想は天然のエナメル質である。