本稿の目的: 上顎洞炎を有する患者への対応にあたり歯科医師が持つべき知識の考察
- 歯と上顎洞の解剖学的な位置関係
上顎洞は上顎骨内に存在する空洞で、容積は15mL、自然口を介し中鼻道と交通している。上顎洞底から最も近い歯、上顎第一大臼歯の口蓋根で0.83mm、次に第二小臼歯、第一小臼歯と続き平均は1.97mmとの報告があるとおり、解剖学的にも非常に近接しているといえる。また根尖が上顎洞内に突出している場合がある。そのため根尖性歯周炎のような病変が生じると、上顎洞内に炎症が波及することは想像に難くなく、上顎洞炎のうち「歯性上顎洞炎」の割合は4割に及んでいるとの報告がある。 - 歯性上顎洞炎の発生
根尖性歯周炎による病変が上顎洞底に接した状態が続くと、上顎洞底粘膜は肥厚する。根尖性歯周炎の急性化および上気道炎の罹患による急性上顎洞炎への移行、辺縁性歯周炎の骨欠損部から上顎洞への波及などが、歯性上顎洞炎発生の原因と考えられる。 - 臨床症状
急性期の症状として鼻閉、鼻漏、悪寒、発熱などが認められる。重篤化すると強度の疼痛を伴い、細菌感染が眼科に及ぶと眼窩蜂巣炎、頭蓋内へ波及すると硬膜下膿瘍を来す。慢性化すると口腔内症状はあまり認めず、鼻症状が多く認められる。
難治性の歯性上顎洞炎
- 上顎洞内の粘膜は多列繊毛上皮で覆われている。健康な状態であれば、上顎洞内に生じた感染による排泄物は繊毛運動により、自然口を通り鼻腔内へと排泄される。しかし、炎症が持続し、繊毛運動機能の低下や自然口の封鎖に伴う気暗記不全が生じると、排泄がうまく怒らず、炎症は長期化する。
- 歯性上顎洞炎の原因である歯の治療(根管治療、外科的歯内療法、場合によっては抜歯)を行っても症状が改善しない場合、医科的なアプローチが必要であり、またそのようなケースがあることを知っておくべきである。
- 歯性上顎洞炎は治療方針をめぐり、患者がはざまに入り翻弄されてしまうことがありうる。歯科医師にとっては隣接医科領域の知識に加え、原因である根尖性歯周炎に対して高いレベルでその病変を治癒させるアプローチかつ医科歯科連携を適切なタイミングでスムーズにとることが重要である。
まとめ
- 歯性上顎洞炎の診断に際し、典型的な症状の理解とCBCTが有効であることが多い。
- 治療方針をめぐり患者が翻弄されぬよう、医科歯科の連携を密にとることが大切。
- 原因である根尖性歯周炎に対し、高いレベルで治癒に向かわせる知識、技術、専門医および隣接医科領域とのネットワークを備えておくことが必要。