薬剤耐性(AMR)対策
まとめ
日本歯科評論 vol.79 No.10(2019-10)
現在、抗菌薬の不適切な使用を背景にして、薬剤耐性(AMR)が世界的に増加している。一方で、新しい抗菌薬の開発には莫大なコストと時間がかかる割に、あまり利益を生まない薬剤のため、多くの企業は抗菌薬の開発を中止・減少させており、国際的に問題となっている。日本では、AMR対策アクションプランを策定し、関係省庁・関係機関等がワンヘルス・アプローチの視野に協働して集中的に取り組むべき内容をまとめた。計画は2016年~2020年までの5年間において6つの分野、①普及啓発・教育②動向調査・監視③感染予防・管理④抗微生物剤の適正使用⑤研究開発・創薬⑥国際協力において、これらに関する「目標」やその目標ごとに「戦略」および「具体的な取組」等を盛り込んだものになっている。歯科の開業医では、特に③・④を念頭において臨床業務をしていく必要がある。
歯科で広く用いられている第三世代セフェム系抗菌薬の問題点として、Bioavailabilityが低いことが挙げられる。Bioavailabilityとは内服した抗菌薬が、腸管から吸収され、実際に循環血液中に到達する割合のことである。ペニシリン系アモキシシリンでは80%が吸収され、第一世代セフェムのセファレキシンでは90%、ニューキノロンのレボフロキサシンでは98%と良好で、これらでは注射薬と同等量の薬剤量の吸収が見込める。一方で、第三世代セフェムのBioavailabilityは薬剤により異なるが、傾向の場合16~40程度低いとされている。Bioavailabilityの低い傾向第三世代セフェムが点滴静注に比べて低用量で多くの患者に使用されたことから、低濃度の傾向第三世代セフェムにさらされた肺炎球菌やインフルエンザ菌の耐性が一気に進行したと考えられる。医療界全体を考えると、経口セフェムの使用量を減少させる方向性であることは間違いない。ペニシリン系を第一選択に使用する方向になると考える。また日本ではIMP型βラクタマーゼを産生するカルバペネマーゼ産生腸内細菌(CPE)が主体で、厚生労働省院内感染対策サーベイランスでは0.2%以下でそれを維持することが目標とされている。最近、口腔ケアの実施により誤嚥性肺炎の発症を抑制できるというエビデンスが蓄積されてきている。周術期における口腔機能管理に対する管理料が算定されるようになり口腔衛生管理が注目され、口腔ケアが盛んに行われるようになってきており、CPEの拡散リスクになる可能性があると考えている。これらのことから標準予防策が十分に実施される必要がある。